描かれた夏風
「文化祭でトップに選ばれたのにね。代表三枠、どうなるの? 急いで変わりの人を探すのかな」

「それにしても本当に何があったんだろう。真由、友絵、アスカ先輩と仲いいんでしょ。何か知ってる?」

 何があったか知っているけれど、私は曖昧に首を振った。

 文化祭の翌日、芸術展の代表を辞退するとアスカ先輩は言ったのだ。

 将来へのプラチナチケットを放棄するだなんて前代未聞で、その噂は瞬く間に学校中へと広がった。

 事情は誰も知らないが、当のアスカ先輩は辞退するの一点ばりだという。

 盗作の件や絵の入れ替わりについて口にする者は誰もいなかった。

 水瀬君は軽業師としても泥棒としても占い師としても優秀だ。

 今日の朝、廊下で見かけたアスカ先輩は吹っ切れたような、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。

 だから誰がなんと言おうと、これでいいのだと私は思う。

「あ、昼休みが終わっちゃう。私、ちょっと裏庭行ってくるね」

 時計を見ると、私は慌てて立ち上がった。

 机の横にかけた弁当包みを携えて、廊下に出る。

「友絵、どうしたの?」

「ほら、例の先輩」
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