描かれた夏風
 私は初めて料理に挑戦したときのことを思い出す。

(下手だったけれど、家族みんな誉めてくれたっけな)

 みんな笑顔だった。だからこそ、下手な料理も美味しく感じられた。

「……いただきます」

 色々なものに対する感謝の気持ちを込めて、私は手を合わせる。

 かじってみたメロンパンは、私がこれまでに食べたどんなものよりも優しい味がした。

「――ところで先輩、数日前にもここにいましたよね。移動教室の時、窓から見えました」

「ん? ああ、最近はよくこの仔に会いに来てたからねー」

 私は思い切って、ずっと気になっていることを訊いてみることにした。

「その……ツツジの花、食べてました?」

 もう少し言葉を選んだ方がよかったかもしれない。私は少し後悔した。

 智先輩は、あははと笑って否定する。

「違うよー。いや、合ってるのかな? あれは蜜を吸ってたんだよ」

「へ……? 蜜ですか?」

「うん、おいしいよ。ちょっと毒性があるけどね」

 私は納得した。そういえば小学生の頃、ツツジをむしったことがある気がする。
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