描かれた夏風
「ほんの一瞬だけど甘くてね。幼なじみとよく花を集めたのを思い出して、懐かしくなるんだよー」

 智先輩はあどけない笑みを浮かべて嬉しそうに言った。

 全く、幼いのか大人びているのかよくわからない人だ。

(それにしても、どうしてあんなところに一人でいたんだろう?)

 疑問は尽きないけれど、逐一聞いていたら昼休みなんてあっと言う間に終わってしまう。

「ところで、友絵ちゃんのことを芸術科の友達から聞いたよ。すごいんだってね、一年生にして春の優秀賞を取るという快挙を成し遂げたって」

 智先輩が気まぐれに話題を転換した。

 私は座ったままで自分の膝に視線を落とす。

「すごくないですよ。先輩もそのご友人から聞いたんじゃないですか? 先生の贔屓だ、って」

 『西口 友絵』に関するその噂は、私に取ってあまり触れてほしくない話題だ。

 芸術科では季節の節目ごとに優秀な作品の表彰がある。

 私は入学して早々、三年生を差し置いてその受賞者に選ばれたのだった。

「ふーん。友絵ちゃんが受賞したのは、先生の贔屓なんだ?」

「ちがっ、違います……。贔屓される理由なんてないです」
< 15 / 134 >

この作品をシェア

pagetop