描かれた夏風
「先輩、妹さんがいらっしゃるんですか?」

「いるよ。今は……元気だったら小学生三年生かな」

「元気だったら?」

「うん、ずっと入院してるんだよ」

 私は思わず言葉をなくした。まずい話題だったかもしれない。

 智先輩はルカを捕まえると、胴体をくすぐって遊び始めた。

 寂しさを紛らわせているんじゃないかな、とぼんやり思う。

「てっきり一人っ子かと思ってました……なんとなくですけど」

「偏見だね。そういう友絵ちゃんは兄弟いる?」

「弟が一人います」

 中学生になったばかりのやんちゃな盛りだ。

 最近になって背がぐんぐん伸びてきたのが気に喰わない。

 私が小学生の頃は、どんな子どもだっただろう。

 そんなに活発じゃなかった。お絵描きに夢中だった気がする。

 幸せなことに、私も弟も病院なんかとは縁がなかった。

 目に入るものすべてが珍しくて、キラキラ輝いている。

 そんな時期に薄暗い病室に閉じ込められて一人きり。

 それは想像しただけでもつらいことだった。

「――私、決めました。今度の絵は、智先輩の妹さんのために描きますね!」
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