描かれた夏風
 私はそう言って立ち上がると、パンパンと土をはたき落とした。

 見れば、智先輩は顔に本をかぶせて寝る体勢に入っている。

 五時間目もここにいるつもりらしい。お腹が減らないか、少し心配だった。

「……じゃあ、また明日も来ますね」

 そう言って私が教室に向かおうとすると、足元にルカがすり寄ってくる。

「ついてきちゃダメ! ルカはここで智先輩の様子を見守ってるの」

 にゃー、とルカが元気よく答えた。

 智先輩の方がルカよりもずっと猫みたいだと私は思う。

「あれ? 何だろう、これ」

 私はフェンスに立てかけてある木の板の存在に気づいた。

 重たいそれを好奇心でのけてみる。

 フェンスに空いた大きな穴がぽっかりと顔をのぞかせた。

(智先輩がふさいだのかな……?)

 そういえば、いつか何かを聞いたことがあるような気がする。

 板をもとに戻そうとした時、昼休みの終了を告げる鐘が鳴った。

「やば、急がなきゃ……!」

 私は弾かれたように駆け出す。板のことに気を配る余裕なんてなかった。

 ――倒れたままにされた板。フェンスに空いた大きな穴。
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