描かれた夏風
 あの絵の中で猫が包み込まれていた日溜まり。

 まぶしそうな瞳はまん丸で、生への喜びと温かみに満ちていた。

 課題を解く手を止めて、背伸びついでに天井を見上げる。

「……ルカ」

 ぽつり、つぶやいた。

(あの絵を見せてやれたらいいな。あの子にも)

 大事な人の微笑みを、頭の中に浮かべる。

 少しずつ、少しずつ時は流れて。

 その黒猫に出会ったのは、雲一つない晴れた日の午後だった。

 いつものように昼寝しようと校舎裏に向かう。

 人気のない桜の下はこの季節、いいサボリ場だった。

「え……?」

 思わず自分の瞳を疑う。

 眠っていたのは黒い仔猫。

 日溜まりの中、あの絵と同じ景色がそこにあった。

 仔猫はやがてこちらの気配に気づくと、ゆっくりと歩いて去ろうとする。

 何とかして呼び止めようと思った。

 でも名前がわからない。

「――ルカ!」

 ハッとして、口をおさえた。

 とっさに口をついて出てきた名が『ルカ』だったのだ。

「おいで」

 手を差し出すと、黒猫――ルカは恐る恐る寄ってくる。
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