描かれた夏風
 野間野アスカ。

 彼女の父――自分の母の兄は、有名な画家だ。

 そのこともあり、アスカは芸術科のエースだという。

「ただいまー」

「おかえり」

 短く素っ気ない挨拶を交わすと、自分の部屋への階段に向かった。

 背後でアスカは、台所に立つ母親との会話を再開させる。

「そう、友絵ちゃんも大変ね」

「まあね、勝負の厳しさを知らないというか……純粋だから。あの子が描く絵と同じで」

 これまでずっと興味をもたなかった噂話を聞いて、驚いた。

 アスカは『西口友絵』の中学時代からの仲良しな先輩だという。

(へえ……)

 あの絵の作者はどんな子なんだろうか。

 どんな風に見れば、世界があんなに優しいものに感じられるのだろうか。

 アスカの話を耳にするたびに、『西口友絵』への興味は強くなっていった。

 自分のことを慕ってくれる、素直で可愛い後輩。

 絵に対して純粋にひたむきで、上達も早い。

 でも決しておごることはなく、むしろいつも自信なさげにしている。

 アスカは両親の前で『西口友絵』のことをそんな風に語った。
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