描かれた夏風
「なんだ、智は友絵ちゃんにも言ってなかったのね。まあ言いたくはないだろうから仕方ないかな」

「智先輩のご両親が、どうかしたんですか?」

 アスカ先輩は口を引きつらせて、しまったとでもいうような表情をする。

「あー、ごめん。ストップ。やっぱりこの話、聞かなかったことにしてくれない?」

「教えてくれませんか。智先輩のご両親が、どうかされたんですか? トラウマって……何のことなんですか」

 話題を打ち切ろうとするアスカ先輩に、私はなおも食い下がった。

「うーん。智が言ってないのに私がペラペラ喋っていいのか分からないんだけど……」

「お願いします。知りたいんです。教えてください!」

 アスカ先輩はしばらく黙っていたが、やがてため息をつく。

「……まあ友絵ちゃんにならいいかな。でも気持ちのいい話じゃないよ。それだけは覚悟してね」

 私が頷けば、アスカ先輩は開き直ったように話し始めた。

「――あいつ、智はね。まだ小学生だった頃に、ご両親を亡くしているのよ」

 言葉をなくした私を前にして、アスカ先輩は淡々と語る。
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