monoTone

腕の中

「…んぅ…」

…ダルい。

体、重いな…

頭痛いし…

熱もまだ…高いみたい。

熱い…けど、温かい?

「…ん…」

やっとのことで、目を開けると…

「……京…介…?」

目の前には、あたしを抱き締めて寝ている、

京介がいた。

でも…

あたしが抱きついたのかも。

あたしの腕…しっかり京介の背中にまわって

る。

…京介の香水の匂いがする。

京介の香水は、癖になりそう…

なんか…好きかも。

この匂いは、安心する…

京介の胸に、顔を埋める。

…あたし、何やってるのかな?

こんなこと、彼氏じゃない人に…

しかも、あたしのこと、嫌いなのに…

それに、なんで京介がここにいるのかわから

ない。

今さらだけど…なんで?

離れなきゃ。

頭では、そんなことわかってる。

わかってるけど…体が動かないの。

「……嫌い、なんだもんね…」

小さい声で、呟いた。

絶対に聞こえない、小さな声で。

「…嫌いじゃねぇよ」

「えっ?」

いやいやいやいや…

さっきまで、寝てたよね!?

「…嫌いな奴、抱き締めたまま寝る奴、どこ

にいんだよ?」

「…ここに?」

京介、そうだよね?

「……嫌いな奴が、高熱出したからって、わ

ざわざ家来る奴が、いると思うか?」

「…思わないかも」

…じゃあ、嫌いじゃねぇは、好きって方どと

らえてもいいの?

でも、こんなの、自惚れてるよね。

……それでも、きっと、友達として、好きっ

て思っても、いいよね?

「…熱、早く治せよ」

「…うん。早く治すね?」

「…ベッドで寝ろ」

京介が、あたしの背中にまわしていた手を離

す。

…一瞬で少し、熱が下がった気がした。

「…一人で歩けるか?」

「うん」

…多分。

足に力を入れ、立ち上がった。

…が、倒れそうになったというか、尻餅つい

た。

「…歩けてねぇし」

そう言った京介が、あたしの肩と膝の後ろに

手をまわしてきた。

「キャッ!!」

あ、あ、あ…あたし今、お姫様抱っこされて

る!?

きょっ…京介、どういうつもりなんだろ!?

そう思って、京介の顔を見ると…リンゴのよ

うに、見事に真っ赤になっている。

耳まで赤いよ…

京介は、あたしをそっとベッドの上に下ろし

てくれた後、布団をかけてくれた。

「…キッチン、借りる。冷やす物、持ってく

る」

京介がそう言って部屋を出ると、もうちょっ

と、自分の熱が下がった気がした。

部屋に京介の香水の匂いが残っている。

…寂しいな。

今年は、お兄ちゃんもお父さんも、出張でい

ないし。

毎年、どちらかがずっと、一緒にいてくれる

から…すごく寂しい。

しかも、あたし…鍵閉め忘れてたんだよ?

…心配だよね。

実際、京介、入ってこられたんだから。
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