ルージュはキスのあとで



 どうしたのかな、と心配になって進くんを見れば、進くんの瞳は、なんだか戸惑いに揺れている。そんな感じがした。

 その瞬間、嫌な予感がした。
 そして、その予感は的中したらしい。

 進くんの言葉を聞いて、思わず固まってしまった。



「仕事に関しては、手段を選ばないヤツだよ」

「……」



 意を決して、といった雰囲気で進くんは真剣な顔をして小声で呟いた。



「こういっちゃ真美さんを傷つけちゃうかもしれないけど……」

「……はい」

「もしかしたら君の進歩度。京が思い描いていたレベルに達していなかったのかもしれない」

「……それはどういう」



 体が震えていた。
 唇も……震えてしまって、うまく言葉にできない。

 ギュッと一度力を入れ、目を伏せたあとに、ゆっくりともう一度進くんを見つめた。

 そこには真剣な表情の進くんがいて、今いったことは冗談でも嘘でもないんだと思い知らされた。



「残念ながら……思ったような結果がでなかったということだったんじゃないかな?」

「それが……キスをした理由?」



 長谷部さんが目標にしていたレベルまでに、私が思うように上達しなかった。

 それはまだわかる。

 今までメイクのことも、ファッションのことも、なにもかも女子力が皆無に近かった私だ。

 三ヶ月そこらで、プロのメイクアップアーティストが太鼓判を押せるまでの上達ができるわけがない。

 それは理解できた。

 その点からいえば、長谷部さんに申し訳ないことをしたと思う。
 長谷部さんは真剣に取り組んでくれた。それはわかっていた。

 私もできるだけ頑張ったつもりだったけど、そこまで達することができなかった。
 これはもう、私の責任だとは思う。

 だけど……。

 それと長谷部さんからの突然のキス。
 この関連性が、まったくわからない。
 
 どうして、あのとき私にキスしたの?
 
 気まぐれ? からかい?
 それとも……もっと、私が傷つく理由からなの……?

 戸惑い続けている私に、進くんは低く真剣な声で呟く。





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