ルージュはキスのあとで




「女っぷりを全面にだすために……真美さんにキスしたってこともあるかもしれない」

「……」



 愕然とした私を覗き込む進くんの顔。
 
 真剣な眼差しと表情は、すべて本当のことだと言っているのと同じだった。
 ポンポンと私の頭を優しく触る進くんの親切心が痛い。

 痛くて、痛くて……ツライ。
 涙が零れ落ちそうになるのを、ギュッと我慢する。

 それしか……今の私には出来そうにもなかった。
 唯一できるのは、それだけしかなかった。

 泣かない。
 それだけしか……。



「とにかく京のことは勘違いしないほうがいいと思う」

「……進くん」

「キスされて舞い上がっちゃう気持ちもわかるけど……それだけで京を好きになっちゃだめだ」

「……」

「本気にならないほうがいい。真美さんが傷つくことになるから」



 進くんのもっともらしい言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 私が取り乱しもせずに言葉を受け入れたことに進くんは安心したのだろうか。
 
 ホッとした表情を浮かべて、忠告だよとばかりに私に追い討ちをかけた。



「モデルをとっかえひっかえしているみたいだし……」

「……そう、ですか」

「ん……自分の弟のこと、こんなふうに言うのは嫌だけどね。あまりオススメできないかな」

「……」

「遊び感覚で恋愛も受け入れるという女の人じゃないと……京とは付き合えないね」



 新たにわかった真実。
 そうか、あれだけの人気だし、容姿だ。

 仕事柄、キレイな女性とお近づきになる機会も多いだろう。
 必然的に、そういう関係を結ぶ女の人もいるんだろう。

 長谷部さんなら……黙っていても女の人が絶えないと思う。
 それだけは、確信に近いものを感じた。

 黙ったままの私を、進くんは心配そうに顔を覗き込んできた。




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