ルージュはキスのあとで
少し痛いぐらいだった。
手首から伝わる長谷部さんの手のひらの熱が、私の気持ちを混乱させていく。
ドキドキと心臓の音が煩い。
静かすぎるエレベーターの中。
私の煩いほどの鼓動が、すぐ近くにいる長谷部さんに聞こえてしまうのではないかと心配になるぐらいだ。
かなり上階だったように思う。沈黙が痛い。
何階で降りたかなんて、冷静に見ていられなかった。
エレベーターから降り、すぐの扉を開けて私を促す。
表札を見れば、長谷部と書いてあった。
どうやら長谷部さんの自宅らしい。フロア全体がもしかして、もしかしなくても……長谷部さんちなのかしら!?
驚きと、場違いなところにやってきてしまったという不安が入り混じりながらも、長谷部さんに促されるままに入ってしまった。
これは一体、どういうことなの?
どういう状態なの?
これから私、どうなるの?
グルグルといろんな感情が入り混じっていくのに、なにひとつ解決策に結びつくものは見当たらない。
「入れよ」
「は、はい……」
玄関に押し込まれたあと、靴を脱ぎなら長谷部さんは私を振り返った。
家の中にあがれ、そういいたいらしい。
この一歩を踏み出せば、きっと後戻りはできない。
そんな気がした。
だけど、帰ろうとはこれっぽっちも思わなかった。
それが自分でも不思議だった。
少しだけ戸惑っている私を見て、掴まれていた手首が、解放された。
それが、何故か寂しく感じる。私は長谷部さんの背中を追いかけた。