ルージュはキスのあとで




「じゃあ、まずは、だ。お前は俺のこと、どう思っている?」

「っ!」

「ここ数日の反応を見る限り、嫌われてはいないと思うのだが」

「そういう言い方、長谷部さんらしいですよね」



 これは、間違いなく探りを入れられている。
 そして、いつもの長谷部節健在といった感じか。

 長谷部さんなりの段階を踏もうとしての行動だとは思うけど……心の準備っていうヤツが整っていません。

 イヤミのつもりでそう言ったのだが、長谷部さんには……通じないことだろう。

 目の前の長谷部さんの表情を見れば、イヤミがきかなかったことは明らかだ。


「ってか! 長谷部さんこそ、どうなんですか?」

「は?」

「『Princesa』専属モデルの秋菜さんと付き合っているとかいないとか!? あとは、モデルをとっかえひっかえしているとか」

「……」

「そこのところの説明を是非お願いします」

「……」

「正和くんは、それは嘘だって言っていたけど……そんなの本人じゃないとわからないし」



 捲くし立てるように、進くんから助言された情報をぶちまけてやった。

 さぁ、長谷部さん。どうでますか?

 進くんが言っていることが正しいのか、はたまた正和くんが言っていることが正しいのか。
 
 お願い、どうか……正和くんが言っているほうが正しい、そう言ってほしい。
 進くんが言っていたことは、嘘なんだって言ってほしい。

 願うような気持ちで長谷部さんを見上げれば、そこには恐ろしい形相に変貌した長谷部さんがいた。



「は、長谷部……さん?」



 恐々声をかける私に、冷たい視線を送ってきた長谷部さんは、低く威圧的な声に戻って聞いてきた。



「それは、どこ情報だ?」

「へ?」

「どこから聞いたか、聞いている」



 至近距離で、その暗黒オーラは怖すぎます。
 その視線が怖すぎて、下を俯いた私は小声で呟いた。



「し、進くん……です」

「……わかった」



 私から離れ、どこかに行ってしまった長谷部さん。
 戻ってきたと思ったら、手には電話の子機が握られている。

 私の目の前まで戻ってきたと思ったら、どこかに電話をし始めた。

 スピーカーボタンを押したのだろう。
 プッという音とともに、呼び出しの電子音が聞こえるようになった。

 そして呼び出しの音が途切れると同時に、


『はい、もしもし?』



 という進くんの声が聞こえた。




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