ルージュはキスのあとで



『俺の京をたぶらかすような強敵がでてきたからね』

『……』

『早いうちに潰しておこうと思って』

『……』

『京さ……真美さんのこと本気だろう?』



 まずは、進くんの私を潰す発言に眩暈を覚えた。

 やっぱり正和くんが言っていたことは正しかった。そういうことらしい。

 モデルの秋菜さんに、わざとけしかけたのも。
 ブラコン……っていう情報も、本当だったみたいだ。

 少しの間のあと、長谷部さんは私を見つめて言った。


『……ああ、本気だ』



 その言葉と、長谷部さんの表情をみて卒倒しそうだった。

 恥ずかしくて倒れそう。


 だけど、嬉しくて泣きそうだ。


『見ててわかったよ。真美さんに聞いたけど、キスしたんだって? それも自分から』

『……』



 無言を肯定だとわかったのだろう。
 進くんは、大きなため息をついたあと、諦めたように鼻でフンと笑った。



『今まで、一度たりとも京から女に触れることはなかっただろう? 言い寄られてくれば、それなりに対処していたみたいだけどね』

『……』

『そういう遊びの女は、いずれ京は興味がなくなるから大丈夫だと思っていた。それは間違っていないと思う』

『……』

『だけど真美さんは違った。だからさ、早く潰しておきたいと思ったんだよ』



 搾り出すように声を出す進くん。
 そこには、悔しさだとか寂しさが交じっているように感じた。



『でも、俺にこんな電話よこしてくるってことは……作戦失敗ってことだね』



 半ば諦めたように、自暴自棄になっている進くん。
 クスクスと笑う声が、なんだか痛々しかった。


『ふざけんな!!』



 長谷部さんの怒りの声が部屋中に響く。
 その横顔は、どこか苦しそうで、悲しそうで戸惑いが見えた。



『ふざけてなんていないよ? 俺はいつだって真剣さ』

『……』



 毅然な態度で対応してくる進くんに、長谷部さんは顔を顰める。
 電話を切ろうとした長谷部さんを止めるように、進くんは私に呼びかけた。




< 133 / 145 >

この作品をシェア

pagetop