ルージュはキスのあとで
「まずはメシを食いに行くぞ」
「……は?」
思わず返答に時間がかかってしまった。
長谷部さんは今、なんて言った?
メシを食いに行くって……これからご飯を食べに行くってっこと?
ポカンと口を開けたままの私を見て、長谷部さんはおかしそうにクスッと笑った。
その笑顔が、今までの長谷部さんのイメージからかけ離れていて、思わず魅入ってしまった。
クール王子。
そう言われる所以を見た気がした……。
固まったままの私を見て、長谷部さんは外を指差した。
「ほら、行くぞ」
「……」
私の返事を聞かず、そのまま会議室を出て行ってしまった長谷部さん。
慌てて私も会議室を出て廊下に飛び出せば、すでに先を歩いている長谷部さんの背中が見えた。
「ちょ、ちょっと! 待ってくださいよ」
「……」
「長谷部さんったら!」
「……」
何度もそう長谷部さんの背中に言葉を投げかけたのだが、返事もなければ私を振り向くこともしない。
私は、半ば諦めた気持ちで長谷部さんの背中を追いかける。
なんとか追いついてエレベーターに乗り込む。
そこには、何人か人がいて長谷部さんに話しかけるのも憚られて思わず口を閉ざしてしまった。
エレベーターの中って何故か静かにしていなくちゃいけないという意識が働く。
とくに内輪の話だと、誰かしらが聞き耳をたてている気がして落ち着かない。
やっと1階にたどり着き、エレベーターの中にいた人たちの流れに身を任せるようにロビーに降り立った私。
とりあえずエレベーターから降りたことに安堵していると、そんな私のことなどお構いなしといった感じで長谷部さんは歩いていく。
相変わらず背中を向けたまま、外を目指してく長谷部さんを見て、私は大きくため息をついた。