ルージュはキスのあとで





「……なんですか?」

「ん?」

「先ほどから。私の勘違いじゃなければ、じっと私のことをみていたようですけど……顔になにかついていますか?」




 相変わらず可愛くない対応だとは思ったのだが、しかたがない。
 なんせ、目の前の長谷部さんは今の私の敵だから。


 どんな怖い顔したって、私は負けないんだからね!


 そんな気持ちを込めて、長谷部さんにそういった。

 ま、半ば弱いものが強いものに見せる虚勢だといわれれば、それまでなんだけどさ。

 むくれたままの私を見て、長谷部さんは無表情で呟いた。




「……なんだ、もう戻ったのか」

「……は?」




 なんのことだろうと思ったが、またむくれてた私のことを言っているのだろうか。

 思わず首を傾げた私に、長谷部さんは視線をソッと逸らして、小さく呟いた。



「……進には笑うくせにな」

「え?」



 長谷部さんらしからぬ発言に、思わず口をぽっかりと開けてマジマジと見つめてしまった。

 私のそんな視線に気が付いたのだろう、長谷部さんはなんとなくバツが悪そうに視線を再び逸らした。



「昨日……あのあと、進と話したんだってな」

「あ……はい」



 昨日の出来事を思い出す。

 長谷部さんにメイク指南のことを断ろうとエレベーター前のロビーにきたのだが、一歩遅く長谷部さんを捕まえることができなかった。
 そんな私を、進くんが追いかけてきてくれたのだ。
 
 そして、いろいろ説得されて……そのときに、そういえば長谷部さんに愛想よくするように伝えておくと言っていたが、本当に本人に言ってくれたらしい。

 余計なことを言っていなければいいのだけど……と、昨日の進くんの笑顔を思い出して肩を竦めた。






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