ルージュはキスのあとで



「今のお前の気持ちを当ててやろうか」

「へ!?」



 私の目の前に椅子を置き、背もたれにもたれかかるように座る長谷部さん。
 目を見開いて驚いている私に、長谷部さんは余裕のある笑みを浮かべる。



「とりあえずこの企画の間だけ、続ければいいか」

「っ!」

「違うか!?」



 ごもっともでございます、そんなことをまさか言うことなどできるわけでもなく……。

 私は、乾いた笑いをするだけしかできなかった。

 つまりは、長谷部さんにご名答! と宣言したも同じことだ。
 バツの悪い私の顔を覗きこんで、楽しそうな長谷部さん。

 その笑顔は時折見せる優しげであり、キレイなほほ笑みで……思わず魅入ってしまった。

 これだから、無駄にキレイな男っていうのはタチが悪いんだ。


 あちこちに、フェロモンを撒き散らさないでほしいものだ。まったく。



 男に免疫がない私には、どう対処したらいいのかわからない。

 さきほどまでは、カメラマンさんや皆藤さんもいたというのに、終わったとばかりに部屋を出て行ってしまったのだ。

 こういうときこそ、皆藤さんにはいてほしかったのに!

 今更すでにいなくなってしまった皆藤さんに恨み節を言ったところで現状はなにも変わらない。
 
 でも……なんだかちょっと得した気分なのは内緒だ。

 日ごろクールな印象の長谷部さんの秘密を覗けたように感じて、なんだか嬉しかった。

 が、実際問題そんなに世間は甘くないし、長谷部さんも甘くはない。






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