ルージュはキスのあとで
「……と、言われましても……ねぇ?」
テレビもあんまり見なければ、雑誌もみない。
芸能人とかも疎いとなれば……無理もないと思うのだけど……。
困ってその女の人を見れば、すでに般若のように顔が怒りに震えていた。
「私は『Princesa』の専属モデルの秋菜よ? アンタ、自分が載っている雑誌のモデルぐらい把握しておきなさいよ」
「は、はぁ……」
それしか声が出てこなかった。
なんかねぇ……うん、私より年上だとは思うのだけど……社会人としてマナーがなっていないんじゃないですかね? お姉さま。
初対面の人間に、般若顔は……いただけないとは思うのだけど。
で、結局この秋菜さんはなにが言いたいのだろうか。
そして、私になんの用事があるっていうのだろうか。
明日も私は仕事がある。
早く帰って、さっさとご飯食べて寝たいんだよね。
私はまだまだ下っ端の2年目ですからね。
仕事だって、満足にできないことも多い。だからこそ、与えられた仕事に対してはノーミスでいきたいのだ。
それなのに、私の帰りを遮るように廊下の真ん中で、大立ち周りは……さすがに勘弁してほしい。
思わず、こっちがため息をつきたくなるってもんだよ。
なんだか……腹がたってきた。
仕事の疲れ、プラス空腹。
それに今日も長谷部さんに、しっかりとしごかれて疲れきっているのだ。
終わったのなら、この場からとっとと去りたい。
なのに、なんだろう。この人は。
高飛車な態度で気分が悪いのはこっちだというのに!
不愉快そうに秋菜さんは、私を見下ろす。
ジロジロと頭の先から足の先まで見たあとの秋菜さんのひと言に、血管がぶち切れそうになった。