ルージュはキスのあとで



「ふん。本当に大したことないわね」

「……」



 悪かったわね! そりゃメイクヘタOLが、三ヶ月でどれだけメイクを習得するか!

 そんな企画の体験モデルに抜擢されたぐらいだ。

 モデルとしてご飯を食べている人とは何もかもが違うんだってば!

 それなのに、どうしてこうも上から目線で、それも初対面の人に言われなくちゃいけないんだろうか。
 考え出したら、腹がたってしかたがない。


 ああ、人間空腹時はろくなこと考えないなぁ。


 そんなことを思っている自分は、まだ余裕はあるなぁと少しだけ安心した。

 今日は帰ってから、なにを食べようかなぁ。
 冷蔵庫になにかあったっけ?

 冷凍ご飯はあるし……でも、これといっておかずになるような材料はなかったかもしれない。

 んー、卵はあったし、長ネギもあった……あとはハムでも切って、簡単にチャーハンにでもしようか。

 スープは、適当に作れば……うんうん、今日はチャーハン、チャーハン。
 早くお家に帰って作って食べたいなぁ。

 もう、私の意識はチャーハンのことだけしかなかった。
 目の前の般若顔で怒っている秋菜さんのことなど、すっかり忘れていた。



「ちょっと、アンタ! 私を目の前にして、なによ、その態度は!」

「……」



 その言葉、全部あなたにお返しいたしますよ?

 そう言ってしまいたかったけど、とにかくこれ以上時間を彼女に獲られるのは、もったいない。

 早く肝心の話しを聞いて、さっさと退散とさせていただきたいものだ。





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