ルージュはキスのあとで



「さっきの……なに?」



 ゆっくりと自分の唇に指を這わした。
 ゾクリと甘い予感で体が震える。

 また、あの柔らかくて冷たい感覚がよみがえってくる。

 長谷部さんは、どうして私にキスをしたのだろうか。
 
 これは単なる挨拶?
 それとも、苛立っていた私を慰めるためのキス?

 からかいの……キス?

 どちらにしても彼女持ちの人間が、ほかの女にする行為ではないことは確かだ。

 長谷部さんが読めない。

 一体、長谷部さんはどんな気持ちで私にキスをしたんだろう。

 でも、私にはそれをもう一度長谷部さんに聞くことはできない。絶対に無理だ。

 だとしたら……このモヤモヤと甘い疼きをずっと抱え込んでいくしかないのだろうか。

 なんとか椅子に座りなおしたときだった。
 会議室の扉を勢いよくあけて皆藤さんが飛び込んできた。



「ごめんなさいねー。お待たせしちゃって……あら?」



 カメラさんを連れて会議室に入ってきた皆藤さんは、私の顔をジッと見て嬉しそうに微笑んだ。



「真美さん、なんだか今日、色っぽくない?」

「へ!?」

「まだメイクしてないのよね? なんか血色がいいし……なにかやったの?」

「べ、べ、別に。いつもどおりだと思いますけど?」



 そうかしら? と不思議そうに私の顔を覗き込む皆藤さんに笑ってごまかした。


 相変わらず皆藤さんって人は、手ごわい人だ。
 この人なら、何かに感づいてきそうという恐れもあって冷や汗が背中を走る。

 その尋問から解放されたのは、長谷部さんの一声からだった。





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