愛を教えて ―番外編―

(1)次男坊たち

『いいえ……こちらこそ、全然気がつきませんでお恥ずかしい限りです。はい……はい。どうぞ、お気になさらず、何かありましたらすぐにお知らせください。はい。よろしくお願いいたします』


万里子は電話に向かって丁寧に頭を下げながら、受話器を下ろした。


「奥様……やはり?」


横で心配そうに立っているのはメイド頭の根元千代子である。

三年前に女主人であった皐月が亡くなり、ひとり息子の柊真二郎から一緒に暮らそうと誘われたものの、屋敷に残ってくれた。

四十年間この屋敷に勤める千代子は、若い万里子が藤原邸を切り盛りするために、なくてはならない存在だ。


「ええ。どうやら、四月ぐらいから色々あったらしいの。でも、園長先生も遠慮なさったみたいで……。大樹(ひろき)は遊びに行ってしまったのね」


子供たちについている若いメイドのひとりが、「申し訳ございません」と頭を下げる。


「いいえ、あなたたちの責任ではないのだから」


万里子は少し間を置き、メイドたちに命じた。


「わたしは出かけてきます。光希(こうき)と立志(たつし)のことをお願いね」

「では奥様、わたくしも同行いたします」


そう言ってエプロンを外そうとした千代子に、


「大丈夫よ。美馬さんのお宅とは五百メートルも離れていないのだから」


万里子は笑って答えたのだった。


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