愛を教えて ―番外編―
『そうそう……真(まこと)から聞いたんだけど、怪我は大したことないみたいだから、そんなに怒ったらダメよ。万里子さんは意外と厳しいから』


電話の相手は一条夏海。卓巳が司法修習生時代に世話になった一条弁護士の妻である。

彼女は卓巳と年齢が近く、万里子よりだいぶ年上だ。でも、一条家の次男、真が結人と同じ学年ということもあり、親しい付き合いをしている。

そんな彼女からいきなり『怪我うんぬん』と聞かされ、万里子はビックリした。


『怪我って……学校で誰か怪我でもしたんですか?』

『学校じゃないわ。幼稚園よ。……いやだ、万里子さんご存じなかったの?』


夏海の言葉に、万里子は鼓動が速まった。

子供たちの世話は決してメイド任せではない。どうしても下に手が取られるのは仕方のないところだが、四人とも同じように時間を取っているつもりだ。

子供たちに怪我をした様子はない。そして幼稚園となると……。


『いえ、全然。ひょっとして……うちの大樹が誰かに怪我でもさせたんですか?』

『私立の幼稚園だから、微妙に気を遣うのよねぇ……。でも、本当に大した怪我じゃないみたいだから、そんな慌てないで』


よほど万里子の声が緊迫していたのだろう。夏海は万里子のほうを落ち着かせようとする。


『もちろん、わかっています。きっと、そう大きな怪我じゃないから、知らせなくてもいいって思われたんでしょう。でも、親としてそういうわけには……。夏海さんがご存知の範囲で構いませんので、お聞かせ願えませんか?』
 

そういって教えてもらったのが、大樹が口げんかの末に暴力をふるい、同級生の園児に怪我をさせたというもの。

相手の名前は美馬北斗(みまほくと)であった。


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