愛を教えて ―番外編―
次はもう少し空けましょうよ……そう万里子は言っていた。

だが、春に美馬藤臣が淡いピンク色のおくるみに包まれた赤ん坊を抱いているのを見て、どうにも我慢できなくなった。

男の子に不満があるわけではない。ましてや、子作りが競争でないことも充分にわかっている。ただ、大学時代に見た美馬の勝ち誇った顔だけが、十六年経っても卓巳の脳裏をよぎるのだ。


「そうですか。どうぞ頑張ってください。私はもう……息子の夜泣きで五人目どころの話じゃありません。娘たちはそうでもなかったんですけどね……雪音もイライラしてるし」


本気で泣きだしそうな宗を見ていると、からかって悪かったかな、と思い始める。


「うちには保育士の資格を持った子供専用のメイドが三人もいる。四人とも連れてうちに泊まりにくるよう雪音くんに言ってやれ。万里子も喜ぶ」

「ありがとうございます。私もたまにはひとりでゆっくりしたいですね」

「わかってるだろうが……“ひとり”で寝るんだぞ」

「……人聞きの悪いことを言わないでください」


慌てた様子の宗に苦笑いを浮かべる卓巳だった。


十年前、宗とこんな話をする日がくるとは、夢にも思わなかった。

それもこれも、すべて万里子のおかげだ。この総会続きの六月が終われば、夫婦ふたりの旅行を計画してもいいかもしれない。子供たちは夏休みに遊びに連れていけばいいだろう。

そんな浮かれた気分の卓巳を待っていたのは……。


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