愛を教えて ―番外編―
雪音なら、幼稚園や相手の親に怒鳴り込んで行くくらいするかもしれない。

でも、愛実は繊細そうだった。子育て以外にも悩みが多そうで。力になりたいと思うのだが、家庭の事情にまで首を突っ込むのはやり過ぎに違いない。

とりあえず大樹には、『悪口を言った子が自分から言うまで、待ってあげましょうね』そう言い聞かせた。
 

「でも“犯罪者一家だから仲良くするな”なんて、酷い親がいるもんですね」


雪音は不愉快そうに言う。

彼女自身がマスコミに書き立てられたことはないが、夫の宗はいろいろ厳しい目に遭ってきている。


「あの人の場合は自業自得の面もありますから……。でも、それで子どもを仲間はずれにされたら、私だったら怒りますよ!」

「そうね……わたしも許せないわ。もし、同じことが自分の身に起こったら。どうして、そんな想像ができないのかしら。わたしには、とても他人事とは思えない」


万里子の言葉に雪音は何度もうなずいた。


「それはたしかに。そういった連中なら、今度は藤原からも、手のひら返したように離れて行くと思います」
 

(親の力関係が子ども社会にまで及ぶなんて……)


中堅企業の社長令嬢としてのんびりした中で育った万里子だ。

楽しいはずの子育てやPTA活動が、予想外にも殺伐としたものであることを知り、上流階級も楽じゃない、とつくづく思うのであった。


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