愛を教えて ―番外編―
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卓巳に悪気はないと思いたい。

それに万里子自身、藤臣が本当に来るのかどうか不安に思っていた。


愛実と藤臣の記事は万里子も目を通した。あれが真実とは到底思えない。だが、ふたりにしかわからない微妙な関係があったのだと察する。


微妙な関係……それを言うなら万里子も同じだ。

婚約当時、藤原グループの社長に見初められた“聖マリアのシンデレラ”と週刊誌に書かれたが……。実際は、本当の結婚がしたくない卓巳が計画した偽装結婚であった。


卓巳は悪い人間ではないが、経営者としては非情な面も持ち合わせているという。

藤臣はどんな人物なのだろう。愛実とは、子どもの話は気軽にできるようになったが、『ご主人ってどんな方なの?』と聞けるほどの親密さはない。

夫の話を丸々信用するわけではないが、卓巳の知っている藤臣はあまり信頼のおける男性ではなかったようだ。


(本当に、美馬さんてどんな方なのかしら? 愛実さんや子どもさんのために、仕事を後回しにしてくれるかどうか……)


会社の責任者として、後回しにはできない時もある。そのことは万里子にもわかっている。


(それでも、と夫に願うのは……単なるわがままなの?)
 
 

「あやまれっ!」


その直後、思い悩む万里子の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。


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