愛を教えて ―番外編―
「成績は常にトップで、教授も舌を巻くほどの論客。金もブランドネームもなしで、多くの女子学生が難攻不落の男を落とそうと躍起になってましたよ。悔しくて少しばかり悪さをしたこともあったが……」


藤臣は少し懐かしそうな声を出し、


「今はもうわかっています。私じゃ彼に敵わない。だから、同じフィールドで戦うのは止めにしました。私は私ですから……」


姿勢を正して、あらためて万里子に向き直る。


「妻のことを気遣ってくれてありがとうございます。お帰りは? タクシーなら、うちの車に送らせますが」


藤臣が予想以上に礼儀正しい男性であったことと、卓巳を褒められたことで万里子は気分がよかった。

だが、かなり慎重な性格なのだろう。最後まで明日のイベントに関して明言を避けていた。それでも、藤臣なら愛実や北斗のために、短い時間でも参加してくれると信じたい。

万里子が礼を言い、彼の気遣いを断ろうとしたとき、信じられない声がそれを遮る。


「妻に対する必要以上の気遣いは不要だ」


ロビーに冷たく響いたのは卓巳の声だった。


< 191 / 283 >

この作品をシェア

pagetop