愛を教えて ―番外編―
学年はひとつしか違わないのに、北斗は大地の言うことをよく聞く。

兄に叱られ、北斗はとぼとぼと階段を上がって行った。


「ありがとう、大地くん……ごめんね」


兄弟の容姿はよく似ていて、ふたりとも母親似だ。だが、成長するごとに、特に大地のしゃべり方は藤臣に似てきている。
 

「パパのいない時は、ママと北斗と忍を守るのは僕の役目だって、パパと約束したから……。僕、早く大人になるからね。立派な大人になって、みんなを見返してやるんだ」

「うん、頼りにしてるわね。……でも、大人になるまではママが大地くんを守ってあげる。ママはそんなに弱くないから、甘えてもいいのよ」


暴れることのできる北斗より、我慢してしまう大地のほうが心配で、愛実は七歳の息子を力いっぱい抱きしめた。


藤臣は『できるだけ行けるようにするから』と言って六時過ぎには家を出た。

もし、藤臣が来られなかったら……。

そのときは区立の保育園に移ろう。可哀想だけど、大地も公立の小学校に転校させよう。良くも悪くも目立つ“美馬”の名前は使わず、愛実の旧姓“西園寺”で通えるようにしてもらおう。


そう心に決める愛実だった。 


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