愛を教えて ―番外編―
卓巳が物騒なことを考え始めると、藤臣は缶を手に抱え、ポツリと呟いた。


「俺が大学を出て二年くらいか……お前が藤原本社に入社して、大学時代からの取り巻きに裏でなんて言われたか知ってるか?」


――こんなことなら、美馬系のミックスより、血統書つきの藤原に取り入ったほうが良かったな。


「負けたくないと無茶もしたけどな……思えば最初から負けだったんだ。俺の目的は美馬を手に入れて、潰すことだったんだから」

「今は違うだろう? 潰すつもりなら、去年できたはずだ」


卓巳の問いに藤臣はまっすぐ見返した。


「ああ。いつ死んでも構わない。どうせ、生きようが死のうが地獄だ、と思っていた頃より、少しは強くなった気がする」


藤臣は缶を横に置くと、膝に手を置いて立ち上がった。

そのまま、卓巳に頭を下げる。


「お前が大学に入ってすぐの頃、いずれ藤原を継ぐ男だ、と美馬の先代から聞かされた。藤原高徳は人を見る目がない。自分も、あれほど優秀な跡継ぎが欲しかった、と。それが悔しくて、嫌がらせをした。――悪かった」
 

ストレートに謝られると思っていなかった卓巳はどう応えていいのかわからない。


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