愛を教えて ―番外編―
万里子の目には三十代半ばと言ってもいいほど若々しく、笑顔の温かい男性だった。背は卓巳より高く、弁護士と言うよりアスリートのような体つきをしている。

インディゴブルーのジーンズに白いセーターがとても爽やかだった。


「八年ほど前、僕が世話になったころはもの凄い仕事量をこなしてたんだが……。三年前に今の奥さんと結婚して、あの人も変わったよ」


来る途中、車の中での会話を思い出す。卓巳が口にした、今の、ということは、以前は別の女性と結婚されていたのかもしれない。


「はじめてお目にかかります。この度はお招きいただきありがとうございました。ちは……いえ、藤原万里子と申します。その節は、たく……主人が大変お世話になりまして」


藤原姓を名乗り、卓巳を“主人”と呼ぶことにまだ慣れてないので、かなり恥ずかしい。

万里子はつっかえながら必死で挨拶をした。


「ようこそ、我が家へ。結婚おめでとう、式には出席できなくてすまなかった。でも、色々聞いてるよ。熱烈なウエディングキスとか」


挙式直後、窓を全開のまま控え室でキスしていたのを大勢に見られたのだ。あの『氷のプリンス・藤原卓巳が!?』と列席者のみならず、経済界で話題になっているという。

でも、面と向かって言われると……万里子は赤面するだけで、気の利いた返事が思いつかない。


「もう、あなたったら! 男同士なら冗談でも、奥様には失礼よ。……申し訳ありません、ようこそお越しくださいました。一条の家内で夏海(なつみ)と申します。この度はご結婚おめでとうございます」


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