愛を教えて ―番外編―
卓巳は一条の忠告をどう捉えたのだろう?

免許は取っただけで運転に慣れていないため、万里子もそうそう卓巳の様子を見ることができない。


「結婚したときに植えた桜の木が、ようやく花を咲かせるようになったそうです。春には、見に来てくださいって、夏海さんが仰ってました」

「ああ、そうか……」


それくらいしか口にすることができず……。

一条家からの帰宅途中、ふたりが交わした会話はそれだけだった。



一生を約束しても、ふたりの間には共有できるものが少な過ぎる。

夫婦の間にだけ漂わせることのできるベッドの中の秘密も、“かすがい”と呼べるはずの子供も、現状では何も得ることができない。


万里子は現実を思い出し、過去に引き返そうとしてしまっていた。


だが翌日、藤原邸の正門からエントランスまでの車道沿いの芝生に、一斉に木が植えられた。

何ごとが起こったのか訳がわからない。

戸惑う万里子の手を引き、卓巳は新しく植樹された苗木の横まで連れて来た。


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