愛を教えて ―番外編―
たとえ遠回りであっても、今歩いている道が、幸福へと辿り着ける道ならいい。だが万里子には、新しい命を育むチャンスなど永遠にないかもしれない。

それができる夏海に対して、劣等感ばかり大きくなっていた。


「本当にお幸せそうで、羨ましいです。素敵なご夫婦で、『理想の家庭』だと思いました。どれだけ遠回りしても、辿り着けたらいいんですけど……」

「それは……僕が相手じゃできないと言ってるのか?」


自分の失言が気になっていた卓巳は、万里子の些細な言動に苛立ちを見せる。


だがそのとき、夏海の表情が変わった。万里子の言葉に、笑顔のままポロポロと涙を零し始める。

それに驚いたのが卓巳と万里子だ。彼女を泣かせるようなことを言ってしまったのか、と青くなる。 

一条もビックリした声で夏海の顔を覗き込んでいる。


「どうした?」

「そんなふうに言ってもらえる日が来るなんて……思ってなかったから、嬉しくて……ごめんなさい。驚かせてしまって」


夏海の言葉に一条の表情も柔らかくなった。


「君のおかげだ。感謝を忘れた日はない。――藤原、些細な誤解や不安は、溜まると利息が付くんだ。人生は結果よりも過程が重要なこともある。何を成したかより、成そうとしたか、だ。家に戻るまでに、万里子さんの誤解を解いておけ。明日も幸福でいたいならそうしろ」


一条は妻の肩を抱き、優しく抱き寄せながら卓巳に諭した。


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