愛を教えて ―番外編―
二階建ての“離れ”はそれほど洒落た建物ではない。

外壁はコンクリートの打ちっぱなし、建物の半分は吹き抜けで、一階は土足で出入りする。結婚式のときは仕切りをして小部屋を作ったが、普段はマンションやビルのエントランスホールのような印象を受ける。

ソファセットがいくつかあり、ちょっとした打ち合わせや休憩、窓とドアを開放すれば、小規模なガーデンパーティにも使えそうだ。

螺旋階段を昇った二階には来客用の部屋が二つ。コレがくせもので従業員がホテル代わりに使っていたのがバレ、厳重に施錠されるようになったらしい。


「卓巳さん……二階に上がってみませんか?」


反省中の卓巳をよそに、万里子はふたりきりがよほど楽しいのか、ウキウキした声で話しかけてくる。


「いや、でも鍵が……」


スッと差し出した手に、センスのない札に“離れA”と書かれた鍵があった。


「離れの二階は見たことがないって言ったら、浮島さんが貸してくださったの」


若奥様の命令とあらば、執事の浮島はすんなり渡すだろう。


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