愛を教えて ―番外編―

後編

「本当にホテルの部屋みたいなんですね」


続きの間もあり、ちょっとしたスイートルームだ。

バスとトイレが一緒になっていて、狭いのが残念だが、まあ、文句をいう客はいないだろう。当然、無料なのだから。


「昔は純和風の二階建てで……祖父が愛人と会うのに使ってたって話だな」

「会うって……こんなところで、ですか? 同じ敷地内に奥様がいらっしゃるのに」

「モラルの欠片もない男だったんだ。そうでなければ……」


十六歳のメイドに無理やり手を出したあげく妊娠させ、生まれた息子を母親と引き離したのだ。それも、金をやりたくないばかりに。強欲な悪党は多いが、ここまで畜生以下の男は少ないだろう。

それが血の繋がった祖父だと思うと、卓巳は反吐が出そうになる。


「僕が入ったときに、祖母上の希望で新しい来客用の離れを建てた。部屋数は増やせたんだが、開放的にしたかったので、一階はあんな感じなんだ」


最近で一番利用しているのは、卓巳の秘書の宗だろう。

遅くまで卓巳に引っ張りまわされ、そのまま泊まっていくことも多い。だが、ここしばらくは、卓巳が不在のときでも泊まるという……まあ、深くは追求すまい。


「ねぇ卓巳さん、ここのテレビはブラウン管なんですね。それにビデオデッキも……」

「ああ、五~六年前に入れたきりだからね。今度、邸内のテレビはまとめて買い換えるという話だな。そのときにここも替えるんだろう」


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