愛を教えて ―背徳の秘書―
普通、一ミリ以下の針が刺さっても痛みを感じる。

だが今は、不思議と痛みは感じなかった。自分の身に何が起こってるのか、よくわからない状態だ。


「君は若いから自分には似合わないなんて、嘘ばっかり。さっきの女の子はもっと若いんじゃない」

「……雪音を突き落としたのは……君か」

「新人研修で助けてくれて、ヒーローだと思ったのに。こんなに女性にだらしなくて、嘘つきだなんて。私、本当に好きだったんですよ。せめて、一緒になって京佳を怒ってくれたら……。それを穏便に、なんて」


薫がぶつかってきた脇腹に、宗は手をやった。指先に生温いものを感じる。それは床に滴り落ち、少しずつ太腿にも伝った。


「どうして……俺を?」


殺すんだ? 俺が君に何をした? そう聞こうとするのだが、恐ろしいほど弱々しい声しか出ない。


「あなたがさっき言ったのよ。理想の男性だったの。現実の辛いことをやり過ごそうとしてたの。そして、悪気のない嘘が……殺したいほど許せなかった! 誰でもいいくせに、たくさんの女と付き合ってたくせに……私のことはフッたのよ!」


不意に視界が歪んだ。


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