愛を教えて ―背徳の秘書―
ここ二~三年、朝美は宗とビジネスを超えた関係にあった。

だが、プレゼントのやり取りをする訳でも、一緒に旅行に行くこともない。ディナーすらふたりで行ったことはなかった。

ようするに、セックスだけの付き合いだ。


朝美が宗の誘いに乗ったのは、早く言えば卓巳にふられた腹いせである。

腹心と言われる男に取り入って弱点を掴み、自分をふったことを卓巳に後悔させよう。最初はそんな企みだった。


なんと言っても、卓巳とはホテルのダブルルームでふたりきりになったこともある。それなのに、ご丁寧にも用意された“据え膳”を、あの社長はゴミ箱に叩き込んだ。

挙げ句の果てに帰国後は、朝美を系列企業に飛ばしてくれたのである。


ほとぼりが冷めたころ呼び戻してくれたが……。

暗に、二度と男女を思わせる振る舞いはするな、と釘を差されたも同然だった。


修道士のようにお堅い卓巳とは正反対で、個人秘書の宗は女の誘いには必ず乗ってくる男。朝美が知るだけで十人は下らない女と寝ていたはずである。

そんな男が、急に朝美との仲に距離を取り始めた。

もう一ヶ月以上、朝美とはご無沙汰だ。別れるつもりなのは見え見えである。

これまでなら、あっさり自分から関係を切ってきたが……。


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