愛を教えて ―背徳の秘書―
振り返ると、傷口が椅子に当たったのか、その場に蹲るようにしている。朝美の目的は見え見えだ。

だが、立場上、無視して出て行く訳にもいかない。


「中澤くん。大丈夫かい? 痛むなら早退してくれて構わないよ」


極めて事務的に声をかける。

だが……なぜか、朝美の返事はなかった。


もう一度ため息をつくと、宗は仕方なく朝美に近寄った。肩に手を添え、顔を覗きこむ。すると、予想外にも朝美の額からは脂汗が流れており、苦悶の表情が浮かんでいた。

さすがの宗も朝美の異変に気付き、


「どうしたんだ? しっかりしなさい!」

「だい……じょうぶ、ですわ」

「俺の目には、少しも大丈夫に見えない」


一分後、朝美を抱え会議室から出てくる宗に、通りすがりの社員は目を丸くした。



本社ビルの六階に、メディカルセンターがある。

外科や内科の外来を受け持つ総合診療だけでなく、美容診療から歯科クリニック。更には、昨今のうつ病患者増加に合わせて、心の相談窓口“メンタルサポートセンター”まで備えていた。


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