愛を教えて ―背徳の秘書―
宗は軽く目と口を閉じた。

どうもこの万里子には調子を崩される。仮に、万里子が卓巳と別れていたとしても、この女性だけは落とせなかっただろう。


そこまで考え、この思考の方向性に問題があるのだろう、と反省する。


「雪音さんがね……信じたいけど、信じられない。流されるままの弱さを変えたい。あの手紙に書いてあった言葉で、何が一番傷ついたかって……『私の恋人』そう言い切ることができない、自分が悲しいって」


万里子の言葉は宗の胸を抉った。

かつて、高校生の雪音に家も学校も捨てさせた男。せびるだけせびり取り、嘘で彼女を縛り、欠片も愛を与えなかったろくでなし。そんな男と自分は違うと信じていた。


(潮時だな……やっぱり俺は、社長のようにはなれない)


雪音から手を引こう、自分は変われない――諦めかけた宗に、万里子が言った。


「だから……雪音さんは宗さんのことが好きなの。それを忘れないでね」

「あの、どこが“だから”に結びつくのかよくわからないんですが……」

「だって宗さんが言ったんでしょう?」


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