愛を教えて ―背徳の秘書―
――女性が怒るのは信頼しているからです。心の底では愛されていると思うからこそ、確認のために怒るんですよ。相手の心が自分にないと思えば怖くて怒れませんし、どちらでもよい相手なら、そもそも怒りません。


以前、卓巳に言った言葉を繰り返され、宗は面食らう。


「雪音さんが全部突き返すくらい怒ってるのは、宗さんを信じてて愛してるからよ。だから……」


万里子の言葉に宗は小さく首を振った。


「人間というのはそうそう変われないものです。特に私のような男は」

「宗さん――変わろうとしないから変われない、のと。一所懸命にやって変われない、のは違うことよ」


階段の上から「奥さまぁ」と呼ぶメイドの声が聞こえた。雪音の声ではない。


「きっと卓巳さんね」


万里子は小さくつぶやくと、忘れないで、と繰り返し宗に背を向けた。


万里子の言葉に奥歯を噛み締め、しばらくその場に立ち尽くす宗であった。


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