愛を教えて ―背徳の秘書―
――宗は信頼に足る男ではない。

理性は確かに警告を発している。

だが、


(ひょっとしたら……私に対する思いだけは、本物かもしれない)


彼女は自分の中に芽生えた“愛”を、どうしても断ち切れなかった。


そして、雪音は覚悟を決める。

答えは、自分自身で見つけよう、と。


人のことならいくらでも強気になれる。それが、いざ自分のこととなると、前回の失敗が頭に浮かび、逃げ道ばかりを探していた。

でも、もう逃げない。

前のときもわかっていたのだ。騙されている自分を認めたくなくて、真実から目を逸らし続けた。でも、今回はちゃんと見届けよう。


もし、それでも宗から離れられなかったときは……『毒を食らわば皿まで』というではないか。

死ぬまで、宗の毒に溺れてみるのもいいかもしれない。


雪音はもう一度、朝美の名前をキッと睨み、病室のドアを開けたのだった。


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