平凡太~ヘイボンタ~の恋
「あの、先生…!」


「ハイ?」


「あたし…産めないんです…」


「病気をお持ちですか?」


「そうじゃなくて…。望まない“子”なんです…」


「ご一緒の方がお相手じゃないんですか?」


「違うんです…。たった一度関係を持った人の“子”で…。その人はあたしの妊娠を拒絶しました…」


「そうですか。でも、安易に堕胎を望むべきではないと思いますよ?」


「悩みました…。簡単な結論じゃないんです…。堕ろすなら時期は早い方がいいって聞いた事もあって…。先生、今すぐこの子を…!」


「栞」


栞の言葉を遮って、ボクは椅子を立った。


「平太、先輩…?」


「先生、彼女、今はすごく混乱しているようなので、日を置いてまた伺います」


「その方がよろしいですね。辻野さん、これだけは言わせてください。産むにしろ、堕ろすにしろ、その子の命は代わりのないたった1つのあなたの命なんですよ」


「…ハイ」


「ありがとうございました」


やりきれない気持ちを抱えて、病院を後にした。
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