平凡太~ヘイボンタ~の恋
「栞ね、歯車が狂ったんだ、って思ってたんです」


「歯車…?」


「ハイ。平太先輩がふり向いてくれないのも、望まない妊娠も。栞の人生が狂った。そう思ってたんです」


「うん」


「でも、ホントはこうなるべきだったのかな、って。こうなるべきように全てが動いてたのかもしれない、って。少し、そう思います」


「栞…?」


「栞、堕ろすことしか考えてませんでした。でも、さっき先生に言われた通り、この子の命の代わりはないんですよ、ね…。堕ろして仮にまた妊娠しても、その子はこの子じゃないんですよ、ね…」


「うん。そうだね」


「ちょっと…」


「ん?」


「ちょっと考えてみようかなって、思います」


「1人で平気?」


「ううん、栞はもう1人じゃありません。この子と2人で…考えてみます」


“この子と2人”


そのフレーズが、もう栞に答えを出させているような気がした。


1人じゃなく、2人。


きっと。


栞は後者を選択するんだろうな、と。


予感させるその言葉に、ボクは栞のお腹の子の幸せを心から願った。
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