先生と執事【続・短編】
腰かけていた身体をゆっくりと持ち上げ、松葉杖を持つ。
そして私に背を向けてから、隆也君はさっきまでとは違う小さな声でつぶやいた。
「ココア、今度は俺に奢ってな。」
「……ココア、ですか?」
「練習か試合の時の差し入れって事でさ。あ、でも、差し入れって言っても皆にじゃなくて俺にだけ持ってきて。」
「え、それって……」
「約束な、二人の。」
そう言って微かに振り向いた顔から見えたのは、少し赤らんだ頬とはにかんだ表情だった。
自分から言ったのに、照れてる。
なんか自分でも何が起きているのか整理できなくなってきちゃったよ。
『俺が足治ってバスケに復帰できるようにな………』
あ、そういえば、さっき言いかけていた事はこの事だったんだね。
「じゃ、またな。」
「あ、しゅ、手術…頑張って下さいっ」
「おうっ」
最後にもう一度笑ってから、カツカツという松葉杖の音と共に隆也君の姿が小さくなっていった。