才能のない作曲家
「麻子を、恨まないでやってね」
「俺が恨むと思うの?」
「・・・思わない。それも、切ないね」
「麻子はいつだって正しい。それが俺たちの合い言葉だろ?」
「うん。でも・・・素直なのは時に、残酷で・・・」
目を潤ませる彼女が何を考えていたのか、今の僕にはもうわからないけれど。
「麻子自身がもう、身動きが出来なくなってるの」
素直さ故だろう。
麻子はそういう人間だ。
偽りだらけのこの世界で、
NO!と強く言える人間。
その人間が、偽りを演じるなんて、到底無理な話なのかもしれない。
でもね、わかってほしい。
そんな麻子が初めて、自分を偽る決心をしたのは、
ほかの誰でもない、君を守りたかったからなのだと。
僕は麻子がどれだけ君に感謝をし、
どれだけ君を心配していたか、よく知ってる。
君がそんな顔をしては、
麻子のしたことが無意味になるじゃないか。
「麻子の、側にいてあげて・・・」
「・・・」
「離れること以外の道を、探して」
「、・・・俺は、麻子なんだよ」
「?」
そう、僕は彼女なのだ。
だからどんなに遠く離れても、
お互い罵り合う立場になってしまっても、
僕は彼女だから、
いつだって一つなのだ。