才能のない作曲家
「麻子の側に、いつも居る」
「そんなこと」
「あるよ、そんなこと、ある」
全ての真実が暴かれ、僕と麻子が自由になれた時、
僕たちはもう一度別の人間になって愛し合うのだ。
だからそれまで、僕と彼女は二人で一つ。
「もうすぐ、麻子がくる。もう帰ったほうがいい」
「・・・うん」
「わざわざ成田まで、ありがとう」
「うん、うん・・・」
「忘れないから」
「・・・」
「麻子を、頼んだよ」
「しょ・・・っ!」
彼女が僕の名前を呼ぼうとしたとき、僕の視界の端っこに、
下を向きながらトボトボと歩いてくる麻子の姿が見えた。
「さあ、行くんだ」
僕の言葉に、彼女はもう何も言わず、そのまま去っていった。
サヨナラ、僕の理解者。
そして、僕の愛する人を愛した人。
僕の親友を愛した人。
多くの愛を持ちながら、それでも独りになってしまう人。
いつの日か、君も誰かに深く愛されますように。
それが、君の愛する人だったら、本当に嬉しい。