好きになっても、いいですか?

そっと、様子を窺うように敦志は扉を押しあけ、室内を見渡す。

中央よりも奥の、壁側に向かって一人の女性――麻子がコピー機の前に立っていた。


「30部……と。後は……」


一人ぶつぶつと声を出して、真剣に用紙と向き合っている。
敦志はその女性が麻子だ、と確信して室内を歩き進む。


「あ。ホチキス……ってどこだろう?」
「ここにありますよ」


誰もいないはずの部屋から声がして、麻子はこの上なく驚き肩をあげた。
恐る恐る振り向くと、視界には黒いホチキスが入ってきて、それを凝視する。
はっとして視線を上げると、そこにあるのは敦志の顔で、ほっと胸を撫で下ろした。


「さ、早乙女さん……。びっくりした」
「私もびっくりしました」
「え?」
「まさか、こんなことまでするなんて」



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