好きになっても、いいですか?

「理由が必要か?」
「あまりに不自然なので」
「……庶務課なんかが、君ひとり抜けたところで変わりはないだろう?」


麻子の射るような視線に負けて、純一は席を立ちながら問われたことに答え始めた。
しかし、果たしてそれが今回の真意なのか否か……今言った純一の言葉に、麻子は怒りを覚える。


「『庶務課“なんか”』……ですか」
「君は庶務課なんかより適所が――」
「庶務課をバカにされているのですか」


まさか、反論まがいの返答が返ってくるなど思いもしない純一は、驚いた顔で麻子を見た。
そして麻子の1歩後ろに立っていた敦志も同じく、目を見開いて麻子の後ろ姿を見ていた。


「庶務課もあなたの会社の一員です。小さな業務だと思われてるのかもしれませんが、大切なひとつの歯車だと、私は思うのですが」
「……庶務課を軽く見ている訳ではない。ただ、君に秘書という仕事が合うのでは、と私が判断しただけだ」


純一のその言葉に嘘はなかった。
昨日のあの一件は、本当に驚愕し、麻子のひとつの才能だと認めたのだ。


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