好きになっても、いいですか?



アパートに帰った麻子は、冷たい水で顔を洗うと、鏡に映る自分を見つめていた。



(だめ……だめ、だめだめ……だめ!)


つい少し前に起きた出来事を思い返しては、自分にそうきつく叫ぶ。
けれど、そう思えば思うほどに思惑から外れていく。


排水溝に小さな渦を作り、流れていく水を見つめて麻子は純一を思い浮かべる。



(あんなに失礼で、嫌味で、面倒くさい人!

だけど……)



『ありがとう』


麻子は、コーヒーを差し出した時のあの純一の言葉が、ふと頭をよぎった。



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