好きになっても、いいですか?

「社長。少しでいいです。私に時間を頂けますか。勿論、本日の仕事は残業してでも終わらせるつもりです」


一体、麻子が麗華をどうしようというのか見当もつかない純一は、呆気にとられてまだ声を発することが出来ないでいた。

麻子にとっては、勝手に辞表を作成されたり、中川の悪事を知りながらもそれを黙って耳に入れていただけの麗華は決して尊敬すべき先輩ではなかったはず。
それは、今から会いに行く理由がただのお別れの言葉ではないとわかることでもあった。


「なぜ――」
「お願いします。ほんの少しでも構いません。時間を――」


頭を深々と下げる姿勢は、麗華にも負けない綺麗な姿だった。

純一は一つ息を吐いて、頭を下げたままの麻子に向かって言った。


「1時間だ。それを過ぎたら諦めろ」
「――はい。ありがとうございます」


勢いよく頭を上げて、純一を見る目には光が宿っていた。

社長室から急いで退室する際に、麻子は敦志にも言葉を掛けることを忘れない。


「早乙女さん、必ず自分の仕事はしますから!すみません!」


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