好きになっても、いいですか?

「――さて、芹沢さん」
「はい」
「わが社では、秘書にこれといってマニュアルはありません。でも、それは逆に常に推考して社長に添わなければならない」
「……はい」
「とりあえず、芹沢さんには、社長の身の回りのお世話をお願いします」

(身の回り……?)


麻子は片手を口に添え、考え込むような素振りをみせた。
彼女の中で、秘書という仕事は未知の世界。敦志が簡単そうに言うことですら、とてつもなく難しいように感じてしまう。
マニュアルがないのなら尚更だ。


「芹沢さん、そんなに考え込まないで。社長と行動を共にしていれば、自ずと自分のすべき仕事がわかりますよ」
「早乙女さん……」
「まずは今日、会談に同行して下さい。アスピラスィオンは8割女性向けブランドですから、あなたがアヴェク・トワを身に纏って同席するだけで、社長の株が上がりますよ」


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