好きになっても、いいですか?
「ちょっと、いや、かなり変わってる子ですね」
「俺に、好きなものを食べさせないつもりか、あいつは」
「……そんなことを言って、純一くんは食欲よりも睡眠欲でしょう?黙っていたら、本当に何を食べているのか」
「……急にアニキに戻るなよ」


不貞腐れたような返事の純一に、口元を隠して笑う敦志は兄ようだった。
本当の家族よりも、家族のような。


「ああ、敦志。そういえば、芹沢さんになにを話したんだ?」
「麻子さんの方ですか?父親の方ですか?」
「父親の方だ。なんだかよくわからないまま戻ってきてしまった」
「と、いうことは、やはり謝礼は受け入れませんでしたか」


メガネを押し上げて、未だ外を見ている敦志は苦笑しながら、想像していたというような口ぶりで答える。

そして敦志も克己と同様、純一が知りたい内容を口にすることはなく。
ただ、社長室の秒針の音と共に、静かな時間だけが流れて行った。



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